2017年度 第4回勉強会

フードロス~日本社会の豊かさの裏側~

松本靖子氏(NPO法人シェア・マインド代表理事)


 9月29日、日吉キャンパスにて「フードロス~日本社会の豊かさの裏側~」というテーマのもと、NPO法人シェア・マインド代表理事の松本靖子氏をお招きし、勉強会を行いました。フ―ドバンクの運営や貧困者支援に尽力されている松本氏のお話を伺い、フードロスという観点から、日本社会の豊かさの裏側について深慮する機会となりました。

講師略歴


東京都多摩市に生まれ、多摩市で育つ。幼少時より、障がい者や社会的マイノリティとその家族が社会環境の中で受ける苦しみを間近で経験する。2015年、東日本大震災後、すべてを失い貧困で苦しむ方々を目の当たりにし、団体設立を決意。2015年11月、内閣府より認定を受け、NPO法人シェア・マインドを設立。「人が人として、あたりまえに受けられる権利を、守り支える団体でありたい」という信条のもと活動中。

貧しさの中に救いはあるか?


 一昔前は、家庭は地域との関係のなかで成り立っていた。当時は、日常的に近所でのコミュニケーションが行われ、生活必需品の貸し借りが行われていた。そのため、たとえ貧困と言われるような生活状態であるとしても、家族以外に生活を支援してくれる人々が周囲に存在していた。しかし、高度経済成長期を経て、個々の家庭の生活が豊かになると、近所で助け合う必要性は徐々に薄れ、地域のつながりは希薄になった。それに従い、自らの家庭以外のセーフティは存在しなくなり、貧困からなかなか抜け出せなくなっている。

松本氏の想い


 松本氏は、身近な「食」から支援を始めることが、コミュニケーション・困窮者支援のきっかけになるという考えから、フードバンクの運営を始めた。現在、日本では、国民の6 人に 1 人が相対的貧困と言われている。この貧困率は、先進国の中でメキシコ、トルコ、アメリカに次いで、ワースト 4 位である。フードバンクユーザーは、貧困であることに加え、子ども時代に逆境的体験(※)を受け、心の傷を負う者も少なくない。そこで、松本氏は食糧支援をすることにより、彼らとコミュニケーションを図り、経済的自立まで共に歩もうと考えた。

※逆境的体験(Adverse Childhood Experience)...幼少期に受けたトラウマ、身体的・性的虐待などの困難な経験。その他にも、家族の投獄、精神疾患、薬物乱用や家庭内暴力、離婚や別居による親の不在など家族の機能不全などを含む。成人期の健康に有害な影響を及ぼすと言われている。

フードロスの背景


 地球の資源は有限であり、あと数十年で枯渇すると言われている。私たち人間が生きていくために、環境に負担がかかっているのである。しかしながら、私たちは、「経済を豊かにしたい」という欲望を理由に、食料をはじめとしたモノを必要以上に生産し、ゴミとして無駄にして捨てている、という現状がある。現に、日本では年に 621 万トン食品廃棄として排出している。

フードバンクとは何か


 フードロスを解決するために、松本氏が行っている活動として『フードバンク』(*)がある。このフードバンクには、以下の 3 つのルールがある。1.賞味期限から1か月以上余裕があり、未開封である食品を扱うこと。2.困窮家庭、福祉施設、非営利での食品提供施設(子供食堂や地域サロン)へ配達すること。3.家庭への配達の際、市役所や社会福祉協議会をはじめとする行政の窓口を紹介することである。

*フードバンク多摩―NPO 法人シェア・マインド

無料スーパー


 松本氏は、無料スーパーを開いている。この無料スーパーは、食料を持て余している人がそれらを気軽に寄付できる仕組みを作り、フードロスという極めて重大な社会問題を解決することを1つの目的としている。同時に、“フードバンク”よりも解りやすいワードを前面に出す事で、障害を持つ方も子どもも、誰もが食べ物のセーフティネットを享受できる環境を作る事を目的としている。

参考記事:「無料スーパー」寄付された食品を提供 月1回で開始 2017 年 9 月 12 日

(朝日新聞デジタル)

学生へのメッセージ


 食生活が豊かになったことで、動物たちを虐げる畜産工場や動物福祉(※)の侵害が問題視されるようになった。また、有限な資源を利用したにも関わらず、無駄にし、廃棄してしまうという現状がある。学生には、その現状を知り、学んだことを社会に広め、その解決策を実行に移してほしい。

※動物福祉…動物が精神的・肉体的に充分健康で、幸福であり、環境とも調和していること(公益社団法人 日本動物福祉協会 『動物福祉について』より引用)

質疑応答


Q1.シェア・マインド利用者との関係が密接になりすぎてしまうという問題はありますか。親密な関係のユーザーに優先的に配慮してしまうことは無いのでしょうか。

A1.丹念な支援を心がけると共に、不適切に立ち入らないよう、充分配慮しています。

 

Q2. 政府から市町村へ配分される補助金の使途が違うのではないかと思うことはありますか。

A2.本来必要とされている団体に補助金が回りきらないという現状もあります。

 

Q3.より貧困が深刻な人を優先するために、無料スーパー利用者の生活状況を調査してないのですか。

A3.調査はしていません。なぜなら、本当に助けを必要とするユーザーが来づらくなると考えるからです。また、無料スーパーは食品ロス解消のためのイベントでもあります。どんな方にも利用して頂きたいと考えています。

 特に困っているという方には、無料スーパーの開催日に、フードバンク利用の手引きもお渡ししています。フードバンクは困窮者が自立した生活を目指して、次のステップに進むきっかけに過ぎません。真の目的は、フードバンクの利用後に、ユーザーが救済機関に自力で連絡を取り、公的な支援を受けてもらうことにあります。

所感


 貧困解決のためには、最貧困層に集中的に資源を投資して救済すると良いと思っていました。しかし、本当に助けが必要な人は助けてほしいと言いづらい環境にあることが分かりました。松本氏は食べ物を無駄にしないネットワークを新たに構築しているというよりも、かつて存在した「人と人との繋がり」を再生していると感じました。

 また、松本氏はフードロスや貧困問題を解決するための課題として「資金集め」を挙げていました。資金集めは、募金活動やボランティア活動だけでは不十分な現状があります。私は、この社会の在り方そのものを見直し、ビジネスとしての支援を改善・考案していく必要があるのではないでしょうか。

 

文責 田村莉乃