2017年度 第2回リフレクション

住まいの未来~資源としての空き家~


6月9日、日吉キャンパスにて、事前学習や町田氏をお招きした勉強会を通し、考えを深めてきたテーマである「住まいの未来〜資源としての空き家〜」について、リフレクションを行いました。

論題「今後10年の間、空き家数を1200万戸以下に保つための方策を考案せよ。」


 空き家数は、2013年で820万戸に上ります。このままの状態で推移すると、10年後の2027年には空き家数が約1650万戸に増加すると予想されています。現行の政策では、「その他住宅(※)」を20%減小させることを目標としています。この目標値より高い目標を設定することに、新たな方策を考える意義があると考えました。そこで、空き家数を1200万戸(何もしない場合に比べ、27.3%以上の減少に値する数値)以下に抑制するという目標を設定しました。

理想の社会「空き家が価値を有する社会」


 論題に沿った方策を各班で立案し、どの方策が理想の社会を実現するのに有用であるかを評価基準とし、各班4分間のプレゼンテーションを行いました。以下、各班が挙げた方策を記載します。

【横井班】空き家将来決定調査


 「空き家将来決定調査」とは、現段階で認知されている空き家を壊す予定があるかないかについて、国が毎年行う調査であり、空き家の所有者は、空き家を解体するか否かを決定する義務がある。空き家を解体する場合は国からの補助金を受けて取り壊し、解体しない場合は低所得者向けの準公営住宅、公民館・フリーシェアスペース、地域住民のコミュニティスペースとして活用する。 この解決策により、空き家を減少することに加え、低所得者への低価格での住居の提供、地域住民の交流を図り、従来のような空き家の解体では実現できない社会を目指す。

【金澤班】空き家バンクの活用


 空き家バンクとは、 各自治体(主に行政主体)が 空き家情報の収集・発信のために設立した組織であり、空き家の所有者と利用希望者の仲介を行う。不動産会社とは異なり営利目的ではないため、無料で利用することが可能である。空き家バンクは既に設立されているが、情報発信が不十分であり、認知度が低いため、利用率が低い。そこで、地域の企業やNPOと協力体制を取り、各地方の空き家バンクと専門家との連携を促すことにより、効率的な空き家バンクの運用を図る。

【福田班】農家レストラン計画


 都市部の集合住宅の空き家の解決策として、「農家レストラン計画」を提案する。この解決策では、集合住宅の空き家を改装し、郊外に一軒家を持つ人々が移り住む「農家レストラン」として活用する。このことにより、都市部の集合住宅は空室を埋めることができ、郊外の一軒家を解体することで、その分の土地を農地に割り当て、農業の効率を上げることができる。さらに、集合住宅の解体・建て替え費用の補填を実施し、農業の衰退に歯止めをかけ、第一次産業の活性化を図る。

【山﨑班】外国人労働者への貸し出し


 国が主体となり、地方自治体が増加傾向にある外国人労働者に向けて低価格で空き家を貸し出すという制度を整える。具体的には、所得の高い外国人働者には賃貸用住宅の空き家、別荘、売却用住宅の空き家を、所得の低い外国人労働者にはその他の空き家(空き家にも関わらず放置されている住宅)を貸し出す。所得に応じて貸し出す空き家を区別することで、空き家の種類を問わず、その数を減少させることができる。

【青山班】「あきやの窓口」の開設


 自治体が、空き家を紹介する対象となる民間企業やNPO法人などから費用を徴収し、無料で空き家所有者との相談を行う「あきやの窓口」を開設する。この計画は、空き家数が全国上位に位置する都市部で進める。まず、「あきや窓口」では、空き家を1.広い空き家(150平方メートル以上)2.狭い空き家(150平方メートル未満)3.解体する空き家に分類する。その後、空き家を用途に応じて企業・自治体に紹介し、活用してもらう。例えば、広い空き家は保育施設・高齢者施設に、狭い空き家は保育士・介護スタッフの社宅や多目的レンタルスペース、解体した空き家は防災公園や駐車場として活用する。この方策により、空き家数の減少に加え、待機児童・防災対策などの社会問題の解決を期待することができる。

【川原班】列島壊造計画20XX年〜田中角栄が唱えた計画再び〜


 全国の空き家を取り壊し、新たに都市開発を行う「列島壊造計画20XX年」を提唱する。この列島改造計画では、低層住宅を増やし景観を意識したコンパクトシティや災害に強い街づくりを目指し、土地開発を行う。さらに、建築物には日本の伝統技術を活用することで、伝統工芸品産業の振興や観光産業を促進し、外国人観光客を呼び込む。今後10年間の空き家の増加率を抑える対策として、1.経済特区の新設(都市開発をした地域を特区に指定する)2.リノベーション産業の振興(新築物件市場から、中古物件市場へのシフトを促進する)3.土地と建物の接収(一定期間利用がない空き家は、国が強制的に解体し、更地にする)を行う。

【日坂班】中古物件市場の拡大


 政府が主体となり、一定の基準を満たした中古物件には国が認定マークを授与し、「その他の住宅(※)」に認定された空き家には管理費用を義務化して、中古物件市場の拡大を図る。この解決策によって、「その他の住宅」に分類される住宅の約半数が解体あるいは中古物件として市場に出回り、活用される。 この方策により、10年後の空き家数を1200万戸以下まで抑制することができる。

【金重班】コンパクトシティとしての都市開発


 富山市の例をもとに、コンパクトシティという都市開発のモデルを提案する。コンパクトシティの特徴として、町全体が公共交通機関でつながった市街地となり、地域のサービスや職場までの移動が容易であるという点が挙げられる。また、 高密度で近接した開発形態であるため、健全で理に適った都市開発モデルと言われている。この方策により、1.環境問題の改善2.労働生産性の向上3.人口の都市回帰の流れとの合流、という3つのメリットが得られる。開発地域では人口流出が抑制され、非開発地域には新しく人が住もうとしなくなり、空き家の増加を抑制することができる。

※空き家は、1.賃貸用住宅2.売却用住宅3.二次的住宅4.その他の空き家(空き家にも関わらず放置されている住宅 )に分類される。

参考資料:総務省,「平成25年住宅・土地統計調査 特別集計」,http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/tokubetu.htm,2017.06.18

プレゼンテーションの評価


 各班のプレゼンテーションを、1.日本の現状に即した有効な解決策か2.ユニークな解決策か3.実現可能性はあるか4.プレゼン力という4つの観点から、上級生(3・4年生)が各班の評価を行いました。上級生からのアドバイスとして、「方策の具体的な予算やスケジュールを考えること」「他班のプレゼンテーションに対しての質問力を高めること」「聴衆に顔を向けて説明すること」などが挙げられました。

所感


 各班の空き家問題に対する方策は、既存の方策を複数組み合わせてアプローチする方策や今までにない斬新な方策など、様々でした。事前学習で学んだ「住居の大量消費社会」という日本の特性を踏まえ、各班が考えた方策の実現性やユニークさを比較することで、空き家問題に向き合うことができたと思います。今後、我々の生活に影響を及ぼしかねない空き家問題について、日本が講じるべき対策の展望を持つことができたことと思います。 また、通常のリフレクションではディベートを行いますが、今回は初めての試みとして、プレゼンテーションを行いました。魅力的な発言の仕方や短時間で要点を伝える力など、ディベートで要求される力とは異なる能力が必要とされる、新鮮なリフレクションとなりました。

 

文責 金澤尚子