2016年度 第2回勉強会

教育と考える力

中村一彰氏(株式会社ヴィリング代表取締役)


4月28日、日吉キャンパスにて「教育と考える力」というテーマのもと、株式会社ヴィリング代表取締役の中村一彰氏をお招きし、第1回勉強会を行いました。

講師経歴


埼玉大学教育学部卒業(2001年)。

学生時代の教育実習にて、画一的な集団形成教育・知識偏重教育に違和感を抱き、民間企業(不動産ディベロッパー)に就職。12年間で計2社に在籍した経験を持つ 。株式会社エス・エム・エスでは、創業期からマザーズ上場、東証一部市場変更までの成長過程において、新規事業開発・人事・営業・経営企画室のマネージャーを歴任。

人事を担当した際に人の育成の難しさを通して児童期の教育に関心を持つ。2012年10月株式会社ニコフカ創業。2014年6月に株式会社ヴィリングに社名変更。

教育実習で感じた違和感


 学部時代の教育実習で、画一的な集団形成が中心の公教育の現状に違和感を覚えた。道徳の授業にて、 駆け出しの手品師が、無償で手品を見せるという子供との約束を守るか、自分の夢の実現のために大きな舞台で手品を披露するのかという二者択一を迫られる題材を扱った。その際に、教員向けの副教材のガイドには子供との約束を守ることのすがすがしさを教えるように書かれていた。このような現状に疑問を残したまま教師になるのは、厳しいものがあると感じ、民間企業への就職という選択をした。

民間企業で学んだこと


 最初に就職した不動産会社では、営業という業務を通じて、様々な職種や人々に接することで、多種多様な会社名、会社の構造、給与実態などを知り、社会の仕組みや実態を知ることができた。 さらに、この会社では、正しいことを正しく行えばおかしなことは起こらないということ(因果応報)、一流を目指すこと、努力・苦労をして身に付けたことは誰にも取られることなく自分の能力になること、相対的に勝つこと、人は感情の生き物であるということを学んだ。

 転職先の株式会社エス・エム・エスでは、営業・新規事業開発・人事・事業買収後の組織統合部門のマネージャーを歴任し、人事を担当した際には、人の育成の難しさを通して児童期の教育に関心を持つようになった。

起業のきっかけ


 民間企業で人事を担当し、人の教育の難しさを感じた。特に、大人になるとトレーニングしても育むことが難しい「創造力」に着眼し、児童期の教育に関心を持った。

教育に対する問題意識


 教育の理想の姿とは、大人たちが子供たちに「将来幸せ」になってもらうために様々な機会や環境を提供するものであると考えている。しかし、現代社会では「幸せ」の定義が難しくなっており、大人たちは子供にどのような力を伸ばしてあげればよいかわからなくなっている。そのため、何が幸せかわからないながらも幸せになる確率を上げる手段として「良い」大学に入り「良い」会社に勤めることができるように投資をすることが今の教育になってしまっている。

中村氏が考える「幸せ」及び理想の教育


 株式会社ヴィリングでは、幸せな人の定義を「イキイキと生き続けている人」とし、そのような人材育成を目的に事業を展開している。ここでいうイキイキと生き続けるとは、「夢中になってアウトプットを目的にした学習とチャレンジが行なわれ、創出したアウトプットが社会やコミュニティの発展に貢献していること。そして、貢献を自ら実感することで、再度夢中になることである。そして、このサイクルが生涯にわたって回り続けている人を「イキイキと生き続けている人」と定義している。

事業内容


 株式会社ヴィリングでは、小学生向け教育サービスとして、アフタースクール事業とSTEMスクール事業を提供している。アフタースクール事業では、情報・グローバル社会で活躍するための力を育むために、スイミングや英会話、教科学習、ダンス、バレエ、体操、プログラミング教育などの様々な習い事を包括的に展開している。また、STEMスクール事業とは「Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)」の頭文字の略であり、理数ITに強い人を育てるという理念のもと、ものづくりを通して学ぶ学習スクールである。こうした2つの事業を通じて、知識偏重型ではなく、幼少期から思考力に重きを置いた教育を提供することで、より実践的に社会に貢献できる人材を育成している。

質疑応答


Q1.教育について、学部時代と現在の心境の違いを教えてください。

A1.学部時代は教育全体に関して、あまり問題意識は持っていませんでした。むしろ、教科教育について関心があり、どうすれば各教科を高いレベルで教えられるかということに主に関心がありました。一方、現在は、子供達に正解のない問いから自分なりの答えを見つけ出す環境をどう作るかに関心があります。

 

Q2.遊びと勉強の機会のバランスをどのように取るのでしょうか。遊びでもクリエイティブさは養えるのではないでしょうか。

A2. 遊びの中でこそクリエイティブは養えると思っています。これを教育サービスに組み込むのは簡単なことではなく、当社のサービスは勉強と遊びを両立するカリキュラムになっているものの、まだまだ工夫が必要だと思っています。

 

Q3.小学校教師等は特に、教育の自由度があるのではないでしょうか。

A3.教師はカリキュラムの実施が仕事の半分以上を占めるのは否めません。私は、教育実習時に画一的な集団育成教育に疑問を抱き、このようなジレンマを抱えたまま教職に就くことは、厳しいものがあると感じて教員に就くことを辞めました。

 

Q4.学童経営者として教える側の雇用の選び方、および雇用後に起こってくる問題はどのようなものがあるのでしょうか。

A4.保育士は子供を好きというだけでは続けていくのが厳しい現実があります。 資格、知識というより、むしろ、子供目線でどれだけ考えられるかを重視しています。

 

Q5.教育格差と経済格差という問題に、どのように貢献していきたいと感じていますか。

A5.一部の高所得世帯だけでなく、一般家庭の子供達にも提供できるサービスを目指しています。そのために、相対的に類似する事業よりも安くする努力をし、教材費を無料にしています。 そのため、安くて良質な教材の選定に注力しています。

 

Q6.相対的に勝つために、類似する他者企業とどのように差別化を図っていますか。

A6.1つのことで圧倒的に勝つのではなく、総合力で勝つ意識を持っています。 相対的に良いサービス、安価なサービスを提供できるように努力しています。

所感


 教育とは、果たして誰のためのものなのか。今日の教育を考える上で、この問いは避けられないものであると私は思います。なぜなら、教育が大人たちのエゴ、自己満足で完結してしまい、真の意味で子供達の「思考力」を高めることができていない現状があるからです。こうした違和感から幼少期の教育に着目し、社会に出てからも役立つ「思考力」を養うために事業を展開されている中村氏の活動は、これからの時代のニーズに答えつつ社会貢献も果たす素晴らしい活動であると感じました。しかし、株式会社として利潤を追求する以上、所得格差と教育格差の問題には直面せざるを得ないのも現実であると思います。ぜひ、中村氏には、あらゆる地域・所得の世帯にもサービスを提供し、良質な教育を子供達に提供して欲しいと切に願っております。

 

貴重なご講演をありがとうございました。

 

文責 平野 天