2011年度 第3回勉強会

医療・日本崩壊の真相と再生への処方箋

本田宏氏(埼玉県済生会栗橋病院副院長、NPO法人医療制度研究会副理事長)


 6月10日の定例会では、長年医療崩壊を訴え続けていらっしゃる本田宏氏をお招きしました。


「医療崩壊」の原因


 本田氏は、学生時代に聴いた講演会がきっかけで医師を目指すようになったのだそうだ。その後、栗橋病院設立当初から医師として働きながら、数々のメディアや講演会を通して医療の現場の問題点を訴え続けてきた。

 

 医療崩壊の問題点は、医療費の不足・そして医師を育てるシステムの不備だと、本田氏は言う。そして、それを解決するためには国民が自ら声をあげなければならないとも述べた。  

 

 日本の医療は、WHOでも世界トップクラスと評価されている。その技術力は確かで、健康寿命は高く・乳児死亡率は低い。このように世界トップクラスの医療を提供する日本の病院、実は他国に比べて圧倒的に受け取る医療費が少ないのだそうだ。  本田氏が挙げた例によると、正常分娩を日本の病院が担当するとその病院には60万円が入るのに対し、アメリカの病院は400万円を受け取るのだそうだ。

 

 本田氏は、日本の医師不足の原因は、政府からの医療費負担が少なく病院スタッフを十分に雇えない現状にあると主張した。アメリカと日本のほぼ同ベット数の病院を比較し、医師の数に10倍の開きがあるだけでなくアメリカには存在する「患者運の案選任係」等の専門職員の仕事を、日本では医師達が兼ねているということにも触れた。日本の必要医師数を45万人とすると、20万人の医師が不足しているとも言われているそうだ。日本の医師不足についてはOECDも指摘している。  ただ医師が不足し多くの仕事をこなさければならないのではなく、自らの担当外の仕事も担わなければならないことが、医師の過重労働を引き起こしているということだ。そこには「医療費亡国論」という、医療費膨大を防ぐ動きによる医師数の抑止が行なわれてきたのだと述べた。  

 

 また、「医師不足=偏在」という意見があることを挙げ、グラフを基にその説の間違いを指摘した。  これらをメディアや講演会を通して国民に伝えようと活動してきたが、いつもうまくいくことはなかったという本田氏。しかし、その地道な活動は実を結び始め、状況は少しずつ改善へ向かっているようだ。


 最後に本田氏が紹介したマーティン・ルーサー・キングの言葉の一部を抜粋したい。


「後世に残る悲劇は、善意の人の沈黙と無関心だ。」

 

ひとりひとりが自らの身の回りの出来事を関心を持って見つめることは、何より大切なことなのだろうと改めて考えさせられた言葉であった。