2016年度 第1回事前学習

教育と考える力


4月22日、日吉キャンパスにて第1回事前学習が行われました。これから3週間かけて学ぶテーマは「教育と考える力」です。今回は今西と齋藤によるファシリテーション形式で、本テーマである日本の教育の現状と考える力について考察しました。

思考力の重要性


 今回のテーマである「教育と考える力」について、私たちは「思考力」という切り口から考えることにしました。ファシリテーターの「思考力とは何か?」という質問から始まり、班で各々の考えをもとにディスカッションをしました。「思考力とは課題解決能力である」、「批判的にものを見る力である」などの意見が挙げられました。その中でも、「知識があったとしても、それを活かせなければ意味がない」という発言には、多くの人が納得していました。これは、元外務省国際情報局分析官である佐藤優氏の「思考力とはOSであり、知識はアプリケーションである。どれほどアプリケーションが優れていても脆弱なOSでは正しくアウトプットできない。知識の正しい理解と吸収のためには、思考力が必要である。」という意見に合致しています。

思考力が低下している?


 現在、日本では思考力が低下していると言われています。それを表す指標として「指示待ち人間」という言葉が生まれたり、各国のイノベーション度をランキング化した「GII(Global Innovation Index)」や、OECDによる国際学習到達度調査である「PISA(Programme for International Student Assessment)」で日本の国際順位が低下していることが示されました。この問題について班でディスカッションを行うと、思考力が低下しているという現状に注目していた班が多い中、SNSの炎上を例示し、人を批判する力は高くなっているという面白い意見も挙げられました。

PISAテスト


 PISAテストは、15歳を対象に行われる学習到達度診断テストで、読解力や数学的リテラシーなどの思考力を測る一つの指標となっているテストです。今回は実際に出題された問題を取り上げ、各班で答えを考えました。また、PISAテストにおける日本の順位は2000年から下がり始めましたが、近年は順位を上げ、再び1位に近づいていることが図を用いて示されました。

「ゆとり教育」と「ゆとり世代」


 詰め込み型教育は、均一化された技術や知識を要する工業社会には効果的な教育でした。しかし、経済がグローバル化し、情報が国境を超える社会になるにつれ大量の情報を取捨選択し、再構築し、新たな価値を生み出す力が求められるようになりました。そこで、生徒個人の自主性を伸ばすことに目的を置くゆとり教育が導入されました。ゆとり教育では、自主的な学習や学外での学習機会を増やすために週休二日制が行われましたが、実際には自由な時間を「休み」と捉えて遊んでしまう生徒が多く見受けられました。 ゆとり世代とは、1897年4月~2004年3月生まれの世代のことを指します。ゆとり世代の特徴として、ストレス耐性が低いこと、自主性がないこと、プライベートを優先することなどが挙げられます。

思考力と日本の教育


 思考力とは知識を活かす能力であり、基礎となる知識を入れることが必要だと考えられます。しかし、「ゆとり教育」によって絶対的な勉強時間が減ったことによって、思考力が低下したとも考えられます。今回は、なぜ「ゆとり教育」という言葉が生まれたのかを、日本の教育の歴史に沿って考えました。度重なる学習指導要領の改訂を経て、軍事教育から児童中心教育へ、経験主義から詰め込み教育へ、そして「ゆとり教育」から「脱ゆとり」へと教育制度が移り変わっていた背景などを学びました。

教育課程改革の変遷


〇戦後:経験主義(昭和22年、26年改訂) 

軍事教育から児童中心主義教育への移り変わりを背景として、旧制の道徳教育である終身の廃止、社会科の新設が行われました。また、男女の教育差別を無くすために家庭科が新設され、指導に弾力性を持たせるために学習指導要領には各教科の総時間数のみが示されました。 しかし、この改訂は戦後改革の中で短時間で作成されたアメリカ式の教育であったため、学校の実情にそぐわない、地域ごとに学力差が出てしまうといった問題点も多く見受けられました。

 

〇1950-60年代:系統性の重視と教育内容の現代化(昭和33年改訂) 

こうした問題点を解決するため、小中学校の教育内容に一貫性を持たせることで系統性を重視した改訂が行われました。また、国際社会で信頼される人材を育成するため道徳を導入し、科学技術の向上を目的として理科と数学の授業時間が増加しました。

 

〇1970-90年代:ゆとり路線(昭和52年、平成元年、平成10年改訂) 

詰め込み型教育による受験戦争の激化や落ちこぼれの増加、校内暴力の横行を受けて学習指導要領の改訂が行われ、初めてゆとりという言葉が盛り込まれました。授業時間を週34時間から30時間に削減し、学校や教師の創意工夫を促進するためにゆとりの時間が新設されました。また、平成という新しい時代を迎え「生きる力」という新しい学力観が生まれました。生きる力の育成を目的として生活科の導入が行われ、文化や伝統の尊重という観点から古典や歴史学習の充実が図られ、習熟度別クラスが導入されました。 平成10年の改訂では、自由時間の選択肢を増やすことによる独創性や思考力の育成、自ら課題を見つけ調べるという課題解決能力や探求心の育成を目的として授業時間の削減と総合時間の新設が行われました。 

 

〇2000年代:ゆとりから学力重視へ(平成21年改訂) 

知識と思考力のバランスを重視する改訂が行われ、30年ぶりに授業数が増加し、小学校高学年に英語科が導入されました。

海外の教育事情とデジタル機器の導入


 今回は、海外の中でもPISAテストで上位にランクインした国の事例を見ていきました。 海外の教育事情を知ることにより、日本の教育の長所と短所が見えてきます。現在、教育分野で注目されているのがデジタル機器を使用した教育です。香港では学校にWi-Fiが整備されたり、オランダでは授業にiPadが使用されるなど、授業にデジタル機器を導入する動きが加速しています。学習意欲の向上や授業が分かりやすくなるといったメリットがある反面、書くという行為の削減による記憶力への影響などが心配されています。今後、デジタル機器の導入は日本の教育を考える上で、切っても切り離せない存在になりそうです。

所感


 教育は国、ひいては世界に大きな影響を与える大切な分野です。大学生の時期に、この問題について考えることは非常に大切なことだと思います。次回の勉強会では、受け身で聞いているだけでなく、思考力を働かせ、積極的に自分の意見を考えていくことが必要だと感じました。 今回の事前学習で学んだことをもとに、「勉強会」「リフレクション」を通じて、さらにこのテーマについて理解を深めていきます。

 

次回は、株式会社ヴィリング代表の中村一彰氏をお招きし、ご講演いただきます。

                                        文責:齊藤涼太郎