2011年度 第3回勉強会

地球温暖化に果たせる日本の役割とは

水野勇史氏(環境省地球環境局地球温暖化対策課市場メカニズム室国際企画官)


 6月8日、環境省地球環境局地球温暖化対策課市場メカニズム室の国際企画官である水野勇史氏をお招きし、地球温暖化に対する日本の役割についてご講演いただきました。


水野氏のこれまで


 水野氏は、大手シンクタンクで地球温暖化問題等に関する調査・コンサルティングに従事された後、財団法人地球環境戦略研究機関にて市場メカニズムグループ・ディレクターとしてUNFCCC交渉、CDMの能力開発等を担当なさった。2010年11月より現職につかれている。

 

 氏は、民間企業からNGO、そして政府機関と、様々な職につかれた経験を活かし、現在は環境省で国際的な市場メカニズムについて中心に扱っておられる。その中の一つに国際排出量取引がある。国際排出量取引とは、国家ごとに定められた温室効果ガスの排出枠(CAP)を、排出枠が余った国と、排出枠を超えてしまった国との間で取引する制度である。


京都議定書の効果と課題


 この排出量取引の話は1997年制定の京都議定書で初めて登場し、地球温暖化に対する科学からの警鐘に政治が答えたという点で画期的であった。具体的には、排出枠をコンピュータ管理するシステム(ITL)(*1)を構築し、また、CDM(クリーン開発メカニズム)(*2)を導入することにより途上国における排出削減に経済的価値を与えたことが、革新的であった。

 

 しかし、その一方で京都議定書にも課題があったと氏は指摘された。なぜなら、この議定書は「先進国の」地球温暖化に対する枠組みを決めるものであり、現在、経済発展に伴い排出量が特に増大している中国やインドといった国を含んでいないからだ。人口が多く、さらに産業も発達過程にあるこれらの国の参画がなければ、温暖化問題は解決されない。


今後の日本における課題


 京都議定書の最大の課題はそのカバー率の低さにあった。排出量制限のある国は、全体の4分の1ほどに過ぎない。そのため、日本はダーバンで開かれたCOP17 で京都議定書第二約束期間には不参加を表明している。そのうえで、日本は以下の提言をしている。

 

 第一に先進国間の連携だ。排出削減には、既存の低炭素技術の利用の推進とともに、長期的な視点に立った技術革新の取り組みが不可欠である。太陽電池のさらなる低コスト化、効率化など、先進国間で革新的な技術開発に向けた連携が必要だ。  


 第二に、途上国間との連携である。先進国の技術、製品を速やかに普及させる仕組みを官民一体で構築し、途上国において、排出削減と経済成長を両立させる低炭素成長を実現させることが重要である。日本は東アジアにおける研究機関間のネットワーク構築など、具体的協力をしていかなければならない。  


 そして最後に途上国支援である。2013年以降も脆弱国を重視し、国際社会とともに継続的な支援を実施することが重要である。例えば、世界銀行を通じたアフリカ向けの制度、能力強化の支援(レディネス・サポート)などがあげられる。


国内排出量設定は可能か


 日本は以上のように、国際的な取り組みとして、2013年以降にもビジョンを持ち、実行に向けて動こうとしている。では、国内での取り組みとして、同様の排出量規制ならびに排出量取引は出来るか。 


 氏は、民主党がマニフェストとして掲げたものをあげ、国内排出量取引を実現させるための提言をなされた。 マニフェストにおいて、地球環境保全について民主党は、①温暖化対策税②FIT(*3)③国内排出量取引 を挙げている。このうち①②についてはすでに導入されているが、国内排出量取引制度導入には至っていない。もし導入するとしたら、企業が経営に合理的に結び付けられる制度が必要であると氏は述べられた。

 

 環境には国家間の利益、経済など様々な問題が絡み合っており、日本が今後国際的にどのような立場で地球温暖化問題に取り組むべきか、さらには国内での今後の課題とそれを解決するための糸口など、短い時間のなかでお話しして頂いた。環境は我々一人ひとりに関わる問題である。今後も世界、そして国の情勢にアンテナを張りつつ、それぞれが自分にできる役割を見つけていければと思う。

 

 ご講義頂きました水野勇史様、ありがとうございました。


(*1)ITL--国際間において排出枠取引をする際の管理システム。

(*2)CDM--京都議定書において温室効果ガス排出削減の義務を負う先進国が義務を有していない途上国と共同で排出削減事業を実施し、事業内の削減分を自国の目標達成に利用できる制度。

(*3) FIT--フィード・イン・タリフ。(Feed-in Tariff) CO2を排出しない再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が固定価格で買い取る仕組み。

 

文責:赤井捺美