2016年度 第4回勉強会

開発と生物多様性

原田祐介氏(株式会社プロット専務取締役)


 7月1日、日吉キャンパスにて「開発と生物多様性」というテーマのもと、原田祐介氏をお招きして勉強会を行いました。 

 猟師の減少や高齢化が進む中で、鹿などの動物の数は増え、作物や人間への害獣被害が出始めています。猟師として現場で活躍する原田氏に、現在の猟師を取り巻く環境と取り組みについてご講演いただきました。また、原田氏のアシスタントとして、新井亮介氏もお越し下さいました。

猟師を取り巻く現状


 猟師の数は毎年減少しており、現在活躍する猟師のうち70代、80代の占める割合が年々増加している。そのため、若手の猟師の活躍が期待されている。 先日秋田県で起きたクマの被害や鹿による交通事故などから分かるように、鹿やクマなどの過度な増加によって、人間に被害が及び始めている。しかし、このような事件が起こる背景には、多様な生態系一つひとつの影響があると考えられる。山の整備には多くのお金がかかるため、放置された土地も多い。本来、里山を整備する必要があるが、林業士の数が減っていることも影響している。このような状況で、今後ますます猟師が求められると考えられる。

猟師をビジネスに


 猟師の中には、趣味として狩猟を楽しむ「レジャーハンター」と、ビジネスとして狩猟を行う「ビジネスハンター」が存在し、前者の数の方が多いのが現状である。また、行政からの助成金をもらえる地区も多く、高齢の猟師の中にはお孫さんの小遣い稼ぎに狩猟を行う人もいる。

 しかし、私は、助成金に頼ることなく、自らの販路を開拓してきた。鹿の皮の敷物や、ツノのオブジェ、キーホルダー、ペット用の餌など、今まで捨てられてきたモノを商品として販売し、実績を積み重ねてきた。また、狩猟体験を折り込んだ婚活イベントを開くなど、これまで関係の薄かった人たちに、積極的に狩猟に興味を持ってもらえる方法を模索している。

次世代の育成


 原田氏は、次世代を担う若者の育成にも積極的である。現在、若者向けに狩猟の学校を開校している。狩猟に必要な技術だけでなく、ビジネスや行政との関わり方まで、一人前として育つまでの間に、手厚いサポートを受けることができる。狩猟の学校では、基本的な罠の仕掛け方や処理の仕方だけでなく、猟犬の育て方など、原田氏らが持つノウハウが惜しみなく提供される。中には、中学生で猟師に興味を持つ子が現れるなど、今後若い世代が活躍することが期待されている。

質疑応答


Q1.猟師の人手不足に対して、何か取り組みをされていますか。

A1.猟師の学校を開校したことです。今の若い方々は、もっと華やかな業界に対して憧れがあるかもしれません。しかし、先日中学生で猟師になりたい子がいたので、そういった子を育成していきたいと思います。

 

Q2.猟に興味を持ったきっかけは何でしたか。

A2.元々、イタリアのアパレル外資に従事していましたが、同級生で釣りなどが好きな人がいた関係で、猟を趣味として始めました。現在では、それが契機となり、猟師を職業としています。

 

Q3.ビジネスの観点で狩猟を行うと、高く売れるものを捕獲しようと思うようになりませんでしたか。

A3.狙った動物が罠に掛かるかは分からないので、選り好みはしていません。

 

Q4.狩猟をする中で、何が一番楽しいですか。

A4.狩猟に付随するビジネスも楽しいですが、やはり捕獲した時が一番楽しいです。

 

Q5.もし個体数が適正値になったときは、助成金が無くなると思います。そのときは、どうされますか。

A5.現在は個体数が増え続けているため、個体数が減少するのはまだ先だと考えています。 また、私たちは助成金を利用していません。助成金に頼らないシステムを作ることが大切だと思い、商品制作などをしています。私は、動物を殺すことに対して助成金を出していることに問題があると考えており、今後は狩猟した動物を有効活用することに対して、助成金が支払われるべきだと考えています。

 

Q6.育成した若者が独立した後は、彼らに対して、どのようなサポートをされるのでしょうか。

A6.単身でできることは限られます。勤め先にもよりますが、仕事をこなしながら害獣を駆除するなど、若者の将来ビジョンに合わせた指導と、兼業で猟師を行う場合に求められることをアドバイスしていくつもりです。

 

Q7. 動画を撮影することも有効な手段であると思うのですが、交流イベント以外にも何かイベントをされていますか。

A7.Youtube等に動画を挙げるのも良いかもしれません。交流イベントの他には、狩りや罠の仕掛け方などの体験イベントや、エアガンを使用したイベントもやっています。

 

Q8.なぜ新井氏(株式会社プロット 企画運営担当)は今の会社に入社されたのですか。

A8.高校を卒業して、すぐ仕事に就いたのですが、なんとなく老後は田舎で暮らしたいと思っていました。しかし、老後ではなく今から始めようと思い、仕事辞め、山を買い、掘っ立て、小屋(柱を直接土中に埋め込んだ小さな小屋)を建てて暮らしていました。そのような中で、通り道で見かける猟師工房がどうしても気になり、Facebookで連絡したのがきっかけです。

 

Q9.行政が主体になることで、事業の規模も大きくなると思います。行政規模で行うとしたら、どのような取り組みが考えられるでしょうか。

A9.行政は、容易に銃の使用を認めたくないという姿勢です。しかし、近年環境省が狩猟会社の認定を行うなど、民間の会社にも目が向けられています。最近は民間企業が参入してきているものの、入札制度で民間企業が仕事を受注した事例はまだありません。 今後は、民間企業の活用も必要だと感じています。

所感


 今回は、一般に知られていない猟師の世界の実情を知ることができました。行政からの助成金に頼らない姿勢や、これまで捨てられていたモノを活用して商品開発するなど、これまでの常識に囚われない姿が印象的でした。ワクワクするイベントが企画されると思うので、今後も注目していきたいと思います。今回ご講演いただきました原田様、新井様、誠にありがとうございました。

文責 齊藤涼太郎