2014年度 第4回フィールドワーク

@郵政博物館


 10月16日、郵政博物館にて第4回フィールドワークを行いました。

  今回のフィールドワークは、私たちにとって身近ではあるものの、普段働いている様子やその仕事の仕組みを具体的に知ることの少ない郵便局の資料館に足を運ぶことで、郵便に関連する労働や仕事を知り、定例会で扱ったテーマである「労働市場と働くということ」について学びを深めることを目的として行われました。


郵政博物館 ―「心ヲツナグ 世界ヲツナグ」―


 東京スカイツリーの根元に立地する東京ソラマチ内で今年3月から展示が行われている郵政博物館。「心ヲツナグ 世界ヲツナグ」をコンセプトに、日本最大33万種の切手や通信の関係資料約400点が展示されています。多くの観光客で賑わうイメージのある東京ソラマチですが、見学が午前中だったということもあり博物館内には落ち着いた雰囲気で、ゆったりと見学を楽しむことができました。展示は大きく「郵便」「手紙」「切手」「郵便貯金」「簡易保険」の5つのブースに分かれており、それぞれのテーマについてたくさんの歴史的資料が展示されていました。


郵便


 日本の郵便の始まりは、明治4(1871)年3月11日(新暦4月20日)、東京・大阪間で官営の郵便事業(制度)が開始された日とされています。そして、郵便を語る際に欠かすことができないのが「郵便の父」前島密。1円切手の図柄の人物である前島密は、郵便制度確立への貢献で有名です。彼は、明治3(1870)に「駅逓権正(えきていごんのかみ)」兼任を命ぜられ、その当時、政府文書の送達に月に1500両を支出していた事実から、郵便は事業化できると判断し、今日の「全国均一料金」による日本の郵便制度を作り上げました。

 

 展示コーナーには昔の郵便配達員の制服やポストの展示、前島密に関する資料などがありましたが、その中でも目を引いたのが「逓送時計」です。時間の正確性が求められる郵便配達業務にとって、時間の管理は重要でした。そのため、日本で標準時間が制度化される明治21(1888)年よりも前に、郵便業務においては既に正確な時間管理が行われていたのです。その象徴ともいえるのが逓送時計です。これは正確な時間で郵便物の運送を行うために運送を担った逓送人に携行が義務付けられたもので、これにより逓送人が町村を通過する時間はほぼ一定となりました。時計1つをとってみても、昔から郵便業務は厳密に行われており、郵便配達員にも重い責任が課されていたことが感じられます。


手紙


 郵便と深いかかわりを持つ手紙の始まりは、日本最初の郵便はがきが発行された明治6(1873)年12月1日にさかのぼります。展示コーナーには手紙にまつわる歴史的な絵画や江戸時代の手紙、歴史的価値の高い手紙、著名人の手紙などが展示されており、平安時代から現在に至るまで手紙は人と人をつなぐ大切な役割を担っていたことを実感しました。特に私たちの興味を引いたのは年賀はがきに関する展示です。


 SNSやメールの普及によりはがき文化が廃れつつある昨今ですが、年賀状の文化は形を変えながら私たちの中に根強く残っています。このように日本人の暮らしにすっかり根付いている年賀状の起源はどこにあるのでしょうか?日本におけるその起源は定かではありませんが、平安時代後期には年始の挨拶を手紙によって交わしていたことがわかっています。明治4年の近代郵便制度創業後は、この挨拶を郵便によって送る習慣が広まっていきました。すっかりおなじみとなった「お年玉つき郵便葉書」の始まりは昭和24年。年賀状の復活により、終戦後の混乱で連絡が途絶えた人々の消息を知る助けになればとの思いから始められたものでした。


切手


 郵政博物館の展示の中で最も驚きであったのが、約33万種にも上る膨大な切手コレクションでした。日本のみならず世界中の切手が集められており、バラエティ豊かな切手の数々が私たちの目を楽しませてくれました。


郵便貯金・簡易保険


 郵便貯金、簡易保険も郵政大臣が管理する国の事業として始められた取り組みの一つです。郵便貯金は明治8(1875)年、簡易保険は大正5(1916)年に始まりました。国民の経済生活の安定、社会の健全な発達を促すために始められたこれらの事業は社会の変化や人々のニーズの変化に合わせて変化してきました。たとえば、逓信省簡易保険局(現 株式会社かんぽ生命保険)は保険業務のみならず、国民に広く親しまれているラジオ体操の制定にも携わっています。それらに関する展示を見ながら郵便事業の多くの分野への広がりを感じることができました。


感想


 郵便は日々の生活と非常に密接な関わりを持つ存在ですが、それがどのような歴史を持つのか、どのような人々によって担われて来たのかを知ることができた点で発見の多いフィールドワークでした。博物館を見学し、長い歴史を持つ郵便業務の変遷を学ぶ中で感じたのは、人々の働き方や仕事のあり方は時代によって変化するということです。たとえば、簡易保険は保険をサービスとして提供するのみならず、社会の変化に応じて様々なサービスを提供してきました。昭和3年、産業界の不況や国民の栄養不良、労働条件の劣悪さにより打ちひしがれていた国民を鼓舞し、健康を増進するために当時の逓信省保険局が制定した「国民保険体操」は現在でも「ラジオ体操」の名前で多くの日本人に親しまれており、時代の変化、人々のニーズに対応した簡易保険業務の好例であると言えるでしょう。


 今回のフィールドワークのテーマ「労働市場と働くということ」について、定例会では労働環境や求人有効倍率の話題をとりあげ、雇用のミスマッチに関する問題を中心に学びを深めてきました。現在、高齢化などを背景として介護業界や建築業界では人手不足が問題視されています。このような時代にともなう社会の変化、そしてそれに伴う仕事に関する問題を解決するには、それを憂うだけでなく、働き方、仕事のあり方を時代に則したものにする努力や工夫が必要なのではないか、そしてその点では、郵便や保険業務が時代や社会の変化に柔軟に対応してきた姿に学ぶべき点が多くあるのではないかと感じました。


参考URL

http://www.postalmuseum.jp/


 

文責:矢部麻里菜