2012年 第9回勉強会

消費税増税

小峰隆夫氏(法政大学教授)


 2月12日、オリンピックセンターにて小峰隆氏をお招きし、日本の消費税の現状とこれからの展望についてご講義いただきしました。

財政再建と国民の幸福


 「日本財政がどうなっているか」ということを考えたときに、答えは「日本財政は心配でない。」もしくは「日本財政は心配である。」この2通りに分かれるだろう。ここで、日本財政が心配でないのであれば特に何もすることはない。しかし、日本財政が心配であれば、国は債権を売るか、歳出を減らすか、歳入を増やす、このどれかによって財政再建を行う。 


 そもそもなぜ財政が心配な時に財政再建を行うのか。まず、経済というものは国民を幸せにするためにある。では、国民の幸せとは何であろうか。例えば、「貿易収支が赤字に転落」という記事を目にすることがあるが、貿易収支が赤字に転落したら、わたしたち国民は不幸せになるのだろうか。逆に、貿易収支が黒字であれば、わたしたち国民は幸せなのか。また、現在日本の人口は減少しているが、人口が減少するということによってわたしたち国民は不幸せになるのだろうか。(人口の減少は結果的に国民を不幸せにするという。それには複雑なロジックがあると小峰氏はおっしゃった。)このように国民の幸せを念頭において考えた時、財政再建は「国民福祉の向上」という「国民の幸せ」の観点から急務であるため、国は日本財政が心配な時に財政再建を行うのである。


日本の財政の今


 日本の歳出と歳入を見たとき、現在日本は歳出の半分を税収でまかなっている(財務省「わが国の財政事情」2012年9月より)。この現状をどう考えるだろうか。ちなみに足りない半分は借金をしてまかなっている。これはつまり、国民は半額でサービスを受けているということだ。それはおかしいのではないかと小峰氏は述べる。ちなみに、平成25年度は歳出の半分以上を税収でまかなうようにしているが、それも実際のところできるかどうかは怪しいものがあるという。


 債務残高の名目GDP比率を見ると、日本の債務残高は他国より断然多く、しかも毎年増えている。債務残高は無限に増え続けるということは有り得ず、必ずどこかで止まる。その止まる場所が日本の財政破綻のときなのである。そもそも最初は債務残高のGDP比率が2倍になったら危ないと言われていた。しかし、実際2倍になっても危険が現れず、日本は今、自国は財政破綻しないと油断してしまっている。


 だが、現在専門家の間では「日本経済は破綻する」というのは暗黙の了解となっている。今専門家の間で議論されているのは、「いつ破綻するのか」また「破綻したらどうするのか」という点である。ちなみに、日本経済が破綻したら、日本の経済規模的にIMFでも救済することは出来ないという。考えられる救済方法は、日銀がすべて国債を買い取るという手段らしい。しかしこれは最後の手段で、これをすることによりインフレが起き、私たちの生活は大変苦しいものになってしまうだろうと小峰氏は述べた。


消費是増税の是非


 財政再建のためには消費税の引き上げは必要不可欠である。それでも、消費税引き上げだけでは足りないのが事実である。本当に財政再建をするには消費税を引き上げるとともに「ムダを省く」ことをしなくてはならないとも述べた。この際の「ムダ」とは自分の懐を痛めて努力をして削るもののことを言う。なぜなら人によって「ムダ」の考え方は違うため、実際のところ「ムダな経費」は人によって違うのである。


 現在政府が行っているのは「2020年までにプライマリーバランスをゼロにする」ということである。これはつまり、私たちが“今”している借金をゼロにするということである。よって、2020年にやっと日本はスタートラインに立てるようになるという。


 ここで、なぜ所得税や法人税ではなく消費税を引き上げることが必要なのかというと、消費税はお金を使ったひとほど税を払い、また、物を購入してその場で払うため逃れることが出来ないという利点があるからである。消費税を上げたら景気が悪くなるという話もあるが、それならば、消費税を下げたら景気が良くなるのかという点は疑問が残るであろう。消費税に関連した話で、消費税の引き上げによる低所得者の不公平感をなくす目的で、食料品は税率を軽減するという「軽減税率」が提唱されている。しかしこれはまず何を軽減税率の対象にするかという点で分類が難しく、また結局のところ不公平感をなくすことは出来ないという。軽減税率については肯定的な民意が多い。しかし、民意に従うと不公平になってしまうこともある。政治家は民意を説得することも大切なのであると小峰氏は述べた。


所感


 消費税について、「国民の幸せ」という観点からの説明は、心に訴えかけるものがありました。そして、消費税について私たち一人ひとりが真剣に考える必要があると感じました。ご講演いただきました小峰隆夫様、本当にありがとうございました。


文責:中杉郁佳