2016年度 春合宿GroupA

人口減少とこれからの日本~多様な働き方~

宮原淳二氏(東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部長)


   215日、オリンピックセンターにて「人口の減少とこれからの日本~多様な働き方~」というテーマのもと、()東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部長の宮原淳二氏をお招きし、勉強会を行いました。

 

講師略歴


  ()資生堂に21年間勤務し、多岐に亘る業務を経験。中でも人事労務全般に携わる期間が長く、人事制度企画から採用・研修まで幅広く担当。男女共同参画・ワークライフバランスの分野では社内で中心的な役割を担い、社員の意識調査や先行他社事例などを研究し実践。2005年度、当時まだ珍しい男性の育児休業を取得。20111月、()東レ経営研究所に転職(現職)。新潟県内の大学への就職活動支援担当講師。社外活動は、内閣官房「暮らしの質向上」検討会座長、文科省中央教育審議会・専門委員、厚生労働省委託事業「短時間正社員制度研究会」委員、経団連「少子化対策委員会」委員等を歴任。鳥取県・県政アドバイザリースタッフ、神奈川県事業評価(点検チーム)委員。浦安市・子ども子育て会議委員。国立市・男女平等参画委員等。

 

ワークライフバランスの重要性と昨今の働き方改革


  現在、日本では人口減少・少子高齢化が進み、労働人口の減少が加速している。その状況下において、人的資源の供給不足を防ぎ、経済成長を維持・向上させるためには、生産性向上・労働力の確保が不可欠である。その解決策の一つとして、ワークライフバランスの推進が考えられる。ワークライフバランス支援とは、「仕事と仕事以外の好循環を目指す取組み」と定義される。とりわけ女性は育児や介護に追われ、仕事と私生活のバランスが取れずに最終的に離職してしまう、というケースを極力減らすことができれば、労働力を確保することができる。また、男性の働き方を改善することも重要で、仕事においては長時間労働を是正し、限られた時間内で成果を挙げることができれば、生産性の向上にもつながる。

 

 例えば、ドイツは効率的な仕事の進め方が図られており、残業することはほとんどない。限られた時間の中で働き、成果を十分に挙げながらも、夏季休暇など、休息をしっかりと取ることができている。宮原氏はこのような働き方を「サッカー型」なワークスタイルと呼んでおり、日本のように終了時間を定めない働き方を「野球型」と呼んでいる。ドイツのような働き方を目指すのであれば、日本は「野球型」から「サッカー型」への働き方改革が必要とされるであろう。

企業における先進的な取り組み事例


  SCSK株式会社では、「人=財産」を経営理念とし、残業時間を月20時間以内、有給休暇を年20日取得する目標が設定されている。さらに、取締役会で定期的に担当役員が削減状況を報告し、残業を減らすと賞与が増える仕組みを導入している。また、部署ごとに目標を設け、部門全員で残業を削減するインセンティブを与える、という工夫をしている。

 

また伊藤忠商事株式会社では、早朝(59)の時間外手当の割増率を25%から50%に引き上げた。朝8時前に出勤する社員が、現在3割程度おり、朝食(おにぎり、ドールバナナ等)を無料配布している。さらに、午後8時以降の残業を原則禁止したことで、午後8時以降残業する社員はかつての30%から7%へ減少したようだ。これらの働き方改革は労組との度重なる協議を経て実現した。

ワークもライフも共に充実した人生を歩むには


  ここでは、資料として動画を鑑賞した。資料のVTRでは、若い夫婦に長女が生まれた際、夫が仕事ばかりを優先し、育児や家事を妻に任せきりにしていた。妻は育児・家事・仕事に追われ、過労のため倒れてしまう、という衝撃的な内容であった。その話の後編で、夫婦は話し合いを積み重ね、二人が家事や育児を分担したことで、これまで妻に偏っていた家事・育児が軽減され、互いにストレスなく仕事に注力できるようになった。その結果より充実したライフを送ることができ、家族をもう一人増やすことも考えられるようになった。まだ学生である私たちにとって、非常にショッキングで現実味のあるVTRであった。

  

一般的に、日本人は、「仕事をする上で大切だと思うもの」として〝良好な職場の人間関係を強く意識する。そこで、働く上で先輩社員に気に入られること、朝早く出社すること、雑用も喜んで引き受けること、が重要であると言える。良い仕事ができてこそ、人生が充実するのである。振り子のように私生活と仕事のバランスを取り、ライフとワーク両方の振れ幅を大きくすることで、より人生の質を向上させることができる。そのようなワークライフバランスが実現された社会では、育児や介護による離職を防いで労働力を確保するとともに、生産性の向上など、多岐に渡るメリットが存在する。

質疑応答


Q1.家事の大変さを夫に理解してもらうには、どうすればよいですか。

A1.夫婦間で話し合いを重ね、家事の大変さを理解し合うことが大切です。また、家事の役割を2人で分担するなどの工夫をすることにより、夫婦ともに仕事にも専念できるようになります。

 

Q2.育児休暇を取る前に上司から反対されませんでしたか。

A2.上司の人自身も育児に熱心な方だったので、反対されるどころか、むしろ賛成してくれました。ただし、重要なプロジェクトがあるときや忙しい時期は避けるなど、育児休暇を取得する側も配慮するべき点はあります。

 

Q3.残業・長時間労働など、非合理的な伝統思考の残存が、日本の生産性の低さに寄与しているのですか?

A3.古い考え方・習慣の非合理的な側面が生産性を低下させているという一面もあります。「これまで当たり前にやっていた」というだけで業務を見直さないままでは仕事が増える一方です。また一方で、サービス業に対して対価を支払わないという文化が日本には根付いており、価値生産を生まない原因になっています。海外ではサービスには対価がつくのが当たり前であり、日本の「おもてなし文化」も重要であるが、過剰なサービス競争になることで社員が疲弊してしまっては元も子もないと思いますね。

所感


  人口減少が進み、労働力人口の減少が加速する日本の社会は、資本の供給不足を防ぎ経済成長を維持してくために、労働力の確保・生産性の向上が必要です。しかし、常に仕事ばかりを優先する生活では、充実した生活とは言えません。そこで、「ワークライフバランス」というあり方が、仕事も私生活も充実した日々を送る基盤となり、生産性向上・労働力の確保にも繋がると感じました。宮原様の「ライフにもワークにも大きく振り子を動かすことで充実した人生になる」というお言葉がとても印象的で、ワークライフバランスによって仕事と私生活に相乗効果を生み出すことができるのだと、強く感じました。

 

 今回ご講演いただきました宮原淳二様、ありがとうございました。

                                                文責 岡根歩美