2018年度 第2回事前学習

社会保障の危機とベーシック・インカムの可能性


 5月25日、日吉キャンパスにおいて第二回事前学習が行われました。これから3週間かけて学ぶテーマは「社会保障の危機とベーシック・インカムの可能性」です。今回は野屋・高岡によるファシリテーション形式で、社会福祉の基礎知識や現状、今後の展望を考察しました。以下はその内容です。

社会保障とその諸問題


 社会保障とは、国が国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度のことであり、厚労省はその機能を「生活安定・向上、所得再分配、経済安定」であると定めています。日本の年金・医療への支出水準はほぼ主要国並みであり、平均寿命は世界最長です。さらに、WHOによると医療制度は世界トップレベルの水準であり、日本の社会保障制度は戦後大きく発展してきました。しかし、国民の貧困率は高水準であり、社会保障の支給方法は複雑さを増しているなど、日本の社会保障制度は未だ多くの問題を抱えています。    

 

 その原因についてディスカッションを行い、サークル員からは、終身雇用制度の限界や、核家族化などの環境の変化が関係しているのではないかという意見が挙げられました。そこで新しい社会保障の形として提案されたのが、ベーシック・インカムです。

ベーシック・インカムの利点と問題点


 ベーシック・インカムとは、政府が国民の生活を最低限保障するため、年齢・性別等にかかわらず一律で現金を給付する仕組みのことです。ベーシック・インカムは、現行の社会保障制度とは違い、全ての人が平等に給付を受けられる点が特徴です。そこで、複雑さや世代間格差といった問題点を抱える現行社会保障制度に代わるものとして、日本はベーシックインカムを導入すべきかディスカッションを行いました。サークル員からは、低所得者層が社会保障給付によって就労のインセンティブを阻害され貧困層に留まってしまう「貧困の罠」を解消するため、また、子育て環境や労働環境の改善に繋がるため、ベーシックインカムを導入すべき、という賛成意見が出ました。その一方、財源確保の難しさや労働人口減少の恐れがあることから、ベーシック・インカムは導入すべきではないという反対意見が挙げられ、意見はちょうど二分されました。

まとめ


 ロールズは「正義論」の中で、自由で平等なメンバー同士で社会の運営ルールを存分に議論し合い、全員の合意を得られたものを「正義の原理」と定め、これでもって社会を取り仕切らねばならないと唱えました。では、国民一人一人が安心して暮らせる社会とはどのようなものなのでしょうか。ディスカッションでは、職を失う不安のない社会、老後の心配がない社会、衣食住に困ることのない社会が理想として挙げられました。ベーシック・インカムは、国民一人一人にとって理想的な社会を達成する鍵となり得るのでしょうか。次回のリフレクションを通して考えを深めていきたいと思います。

所感


 ベーシック・インカムは、現行の社会保障制度の問題を克服するための有効な手段と言えます。しかし、莫大な財源の確保、個人に対する柔軟な対応、労働意欲の喪失などへの不安も多く残っています。日本が目指すべき社会福祉の形とはどのようなものか、ベーシック・インカムはそれに対して有効に働き得るのか、あるいはベーシック・インカムに変わる解決策があるのか、これから考えていきたいと思いました。