2017年度 第3回リフレクション

平和主義の行方~一人一人が考える未来~


 6月30日、日吉キャンパスにて、事前学習を通し深めてきたテーマである「平和主義の行方~一人一人が考える未来~」について、ディベートを実施しました。

【論題】「日本政府は国際平和へ貢献する為、自衛隊の海外派遣を一層推進すべきである。是か非か。」


 現代社会において、国際平和を実現することは、自国のみでは難しく、他国と協力する必要があります。今回のディベートでは、日本が自衛隊の海外派遣を推進することで国際平和に貢献するべきか、それとも日本の負担を最小限にとどめ、他の策を講じることで国際平和へ貢献するべきかが争点となりました。 以下、肯定派・否定派において挙げられた論点を紹介します。加えて、否定派の代替案を掲載します。

肯定派


・米陸軍式幕僚大学のキューン教授によると、日本は世界の海軍国の上位5位以内に入るとされている。したがって、自衛隊の駆けつけ警護を拡大は、PKOなどにおいて部隊や装備を世界中に運搬する際に必要となる海軍力の向上に大いに貢献すると考えられる。

 

・2004年12月、イラクのサマワ市内で「自衛隊の派遣期間が終了し、日本へ帰還する」という噂が広まり、「自衛隊の滞在延長を願う署名運動」が展開され、2日間で1500人の署名を集めた。また、地元紙アッサマワが現地のムサンナ州の住人1000人を対象にしたアンケートによると、日本政府の陸上自衛隊の派遣延長について、支持するという意見が78%、支持しないという意見が13%であった。以上より、自衛隊の海外派遣は現地の人々から支持を得ていると言える。

 

・自衛隊の海外派遣が国際平和に貢献しているという根拠として、以下の3点を挙げる。1.ソマリア沖において、旅客船の護衛や警戒監視飛行を実施するなど、海賊行為の抑止と船舶の安全確保に貢献している点。2.内乱が続いていたカンボジアや、大地震で大被害を受けたハイチで、被害を受けた地域への後方支援をし、精力的に復興や秩序回復に尽力している点。3.各国の食料事情の改善に貢献している点。これらは、すべて自衛隊の海外派遣による成果である。

 

・2016年2月の統計によると、国連平和維持活動における日本の軍事活動への貢献度は、124か国中55位であり(※1)、低くに位置している。このような現状を踏まえると、日本は日本国憲法上、平和維持活動や軍事介入をする有志連合には参加出来ないものの、自衛隊の海外派遣を推進し、停戦監視や治安維持を通して国際平和に貢献すべきである。

 

※1:Ranking of Military and Police Contributions to UN Operations,Retrieved July 12,2017, from http://www.un.org/en/peacekeeping/contributors/2016/feb16_2.pdf

否定派


・平成26年度に内閣府が行った『自衛隊・防衛問題に関する世論調査』によると、身近な人が自衛隊員になることに「反対する」とした者の割合が、前回の調査結果と比べて3.8ポイント上昇している。自衛官の人数が減少している今日において、自衛隊の海外派遣をより一層推進すれば、国内の災害救助や自衛に支障を来たす可能性が高い。

 

・建前上、自衛隊は戦闘行為を行うことはできないが、他国の戦争に兵站(戦場で後方に位置し、前線の部隊のために軍需品・食料等の供給・補充等を任務とする活動)や補給の護衛などへの協力を要請される可能性がある。このような後方支援は、「戦闘地域」に含まれる可能性があるという危険性も指摘されている。また、戦闘行為は人道支援の前提である中立性を損なうものであり、軍事活動と混同される危険性が高い。

 

・愛知県弁護士会によれば、名古屋高等裁判所は、2008年に行われた自衛隊のイラク派遣を巡る裁判において、「現在、航空自衛隊がイラクにおいてアメリカ兵等武装した兵員の空輸活動を行っていることは、憲法9条に違反する」との違憲判断を行った。このように、自衛隊の海外派遣は日本国憲法に反するおそれがある。

代替案


・南スーダンへの派遣にかかる年間約200億円の費用を、ユニセフに寄付すると仮定した場合、年間350万人分の栄養補助食品、333万帳のテントを寄付することができる。このように、寄付に資金を回すことにより、より合理的に国際平和の発展に寄与できると考える。

 

・日本の目指すべき国際平和への貢献は「ODAを戦略的に活用し、紛争地域の平和構築に国際社会と協力して積極的に貢献していく」(憲法審査会ホームページより抜粋)といった人道的観点によるものであり、武力の行使は一切必要ない。また、自衛隊の海外派遣は国際平和に貢献するどころか争いの火種を拡散させ、非軍事的な活動で積み上げてきた日本の国際的地位を失墜させるという可能性も否定できない。

所感


 今回のディベートを通し、日本が国際平和に対して採るべき姿勢について、深く考えさせられました。現在、世界では国際平和を維持するための活動の多様化や複雑化により、要員や装備が不足しています。その中で、日本はより一層国際平和へ貢献する姿勢を示して来ました。しかし、言うまでもなく、国際平和への貢献は多額の費用や様々な危険を伴います。日本はこれから国際平和とその安定にどのように向き合っていくのか。日本国民一人一人が自らの問題として捉え、議論に参加する責任がある問題ではないでしょうか。                           

 

文責 福田貴大