2020年度 第4回勉強会

少子化問題の実像~日本の未来を考える~

筒井淳也氏(立命館大学産業社会学部教授)


 11月6日、Web会議サービスであるZoomを使って勉強会を行いました。「少子化問題の実像~日本の未来を考える~」と題して、立命館大学産業社会学部教授である筒井淳也様にご講演いただきました。

講師略歴


 光陵女子短期大学国際教養学科専任講師、名古屋商科大学総合経営学部助教授、トロント大学社会学部客員教授を経て、2014年から現在まで立命館大学産業社会学部現代社会学科教授を務めている。この間京都市男女共同参画審議会委員、岐阜大学地域科学部非常勤講師、京都大学大学院文学研究科非常勤講師、三重大学人文学部非常勤講師、関西学院大学大学院社会学研究科非常勤講師なども務める。

 

 家族社会学、計量社会学、女性労働、国際比較等に関して研究しており、研究分野が行政にも深く関係しているため、内閣府にて「少子化社会対策大綱の策定のための検討会」委員として活躍している。また、特に最近は「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」のメンバーとしても活動している。

日本において少子化は問題か


 そもそも少子化とは何なのか。文字通りに読むと「子どもが少なくなること」だと考えられるが、少子化は単に子どもの数が減ることを指すのではない。

 少子化には大きく分けて二つの意味がある。一つ目は、子どもの数が少なくなった影響で人口が減少することである。しかし、「人口が少ない」こと自体は大きな問題ではない。データを見てみると、日本より人口が多く、かつ経済水準が上回っているのはアメリカのみである。しかし、フランスやスウェーデンのような先進国のほとんどは人口が日本よりも少ないにも関わらず、日本よりも一人当たりGDPが高い。従って、人口が少ないことは問題ではないと考えられる。

 少子化の二つ目の意味は、人口構成の歪みである。16歳から64歳までの人口1人当たりに対する高齢者数を高齢依存率と定義すると、この高齢依存率が高ければ高いほど世代間所得移転規模が大きくなる。すなわち、高齢者を支えるために若い世代が払う社会保障費の負担が大きくなる。この点で少子化が問題だと言える。

 少子化の特徴として、人口減少の速度によって歪みの深刻さが変わることが挙げられる。速度が早ければ深刻さの度合いは増すが、人口減少がゆっくり進むとすると、高齢依存率がある程度一定の値のまま維持されるため、国家が対応しやすいという利点がある。もちろん人口減少の速度に関わらず、地域間の格差を背景に人口が減少したことによって維持できない自治体や集落がでてくることも忘れてはならない。

日本の少子化の経緯や原因


 少子化の要因に関しては現在様々な議論がなされているが、今回は比較的有力な意見をまとめて述べる。

 第一に、出生率の低下とそれに伴う結婚数の減少が挙げられる。日本で少子化が始まったのは1970年代であるが、この頃からのデータの推移を見ると結婚した人がもつ子ども数は現在までほぼ変化していない。晩婚化によって多少出率が弱まりつつあるとはいえ、ほとんどの日本人は結婚すれば子どもをつくると分かる。そのため、日本において出生率が低下した理由は「結婚しないこと」、主に未婚化・晩婚化だと言われている。

 ではなぜ未婚化が進んでいるのだろうか。多くの人は、この問いに対して「結婚しなくても良い」という価値観が一般化したからだと答える。しかし、このような問いを発する際は、常に言葉の意味に注意するべきだ。なぜなら、価値観や主義にはグレーゾーンが多く含まれるからである。例えば独身の男女に「理想のルックスで、高収入で、家事も育児も全部やってくれて、自分との相性も良い相手がいるときでも、結婚はしないか?」と尋ねた場合、彼らが明確にNOと答えるのであれば「どんな場合でも結婚しない」という価値観、主義を持っていると言える。しかし、「お金が無いから、仕事を続けたいから」などの理由からNOと答えた場合には、彼らは「結婚しない」主義ではない。多くの人は、この中間にいるのである。

 要するに「条件の合う人がいないのであれば結婚しなくて良い」という考え方は、以前の「条件が合えば結婚したい」という考え方と大きな差異は無い。そのため未婚化の原因は、価値観の変化というよりは、結婚する条件やものごとの優先順位の変化だと考える必要がある。具体的に言うと、昔は大して恋愛感情を持っていなくても、生きていくためあるいは世間体を保つために結婚することが多かったのに対して、現代は収入や育児など様々な条件を考慮したうえで結婚しない選択肢をとることが増えつつある。未だに独身者のおよそ9割が”条件が合えば”結婚したいと思い続けていることからも、この考察の正当性が伺える。

 結婚したいのに結婚できない理由として「両立困難説」と「ミスマッチ説」の2つが挙げられる。従来は、特に女性が仕事と家庭の両立が難しいため結婚しなくなったという「両立困難説」が唱えられてきたが、実は結婚後も仕事を続けたいという女性はそんなに多くない。「ミスマッチ説」とは、 仕事の継続には必ずしもこだわるわけではないが、自分が思い描くような相手がいないから結婚しない人が増えているという考えのことを指す。日本では「ミスマッチ説」と矛盾しないデータや分析が多いため、後者のほうが有力とされている。

 この背景には、現代の女性が徹底して「下位婚」を拒否していることがある。大企業・専門職・正規雇用などの男性など、女性にとって条件が良い男性と結婚することを上位婚とし、逆に所得が多くない職種や非正規雇用の男性との結婚を下位婚と呼ぶこととする。データを見てみると、1960年代には高卒女性の11%が下位婚を経験した一方で、大卒女性は1%しか下位婚を受け入れていない。2010年代も同様に、高卒女性の4%が下位婚を受け入れたものの、大卒女性は下位婚を受け入れたのはたったの2%である。これらのデータから分かるように、高卒女性は下位婚が比較的多いのに対して大卒女性は昔から徹底して下位婚を避けてきた。有利な条件を持った男性が少なくなり大卒の女性が増えている今、女性は条件の良い男性を奪い合っているといえるのである。

国際的な比較


 日本と同様に欧米でも少子化が始まり、1980年代には不安定な景気が続いていたため、少子化の解決と並んで男性雇用の安定化も目下の課題であった。しかし、欧米では自立に対する意識が強く実家を頼ることが少ないという文化的背景から、収入が厳しくなると生活費の補助を求めて親を頼ることが受け入れられる日本とは違い、欧米では収入が少なくなっても男女がパートナーとなり協力して稼ぎを得ることで生計を維持するような共働き社会が形成された。欧米各国では政府が子育て支援を充実させたこともあり、最終的にある程度出生率が回復した。

 欧米で共働きが増加している一方で、日本では未だに共働きが進んでいない。2018年の労働力調査を見てみると、夫婦と子供から成る世帯の「夫が週35時間(フルタイム)以上雇われて働いている世帯」を100%としたとき、女性もフルタイムで働いている共働き世帯はたったの17.9%である。専業主婦世帯が38.3%を占め、夫の年収が妻より圧倒的に高い層が多い日本は、少しずつ改善が進んでいるとはいえ未だに専業主婦社会であり、以前の働き方と目立った変化はない。

 しかし、実のところ日本の出生率はアジアの中では比較的高い。例えば日本の合計特殊出生率は1.4前後であるのに対して、韓国のある時の合計特殊出生率は0.98である。アジア諸国では手厚い子育て支援を実施しているにも関わらず出生率が低いが、これには主に3つ原因があると考えられる。

 1つ目は、「カップル」でなくとも生活できる条件があったことである。前述した通り、欧米において同棲は家計を維持するための一つの手段でもあるのだが、アジアでは生活が厳しくなっても親に頼って解決することが多い。

 そして2つ目の理由として、アジアは「カップル形成」に対する文化的圧力が小さいことが挙げられる。欧米ではどこへ行くにも、性別はさておきカップルでの行動が求められる傾向があり、旅行やパーティ等どこへ行くにもカップルで行動することが多い。しかし、日本では女子会や友達同士での旅行が人気であることから分かるように、恋人と一緒に行動していなくても周囲の目を気にする必要が無いと推察され、これが違いを生んでいるといえる。

 3つ目の理由として、アジアでは欧米よりも「愛よりカネ」という考え方が一般的だということが挙げられる。欧米ではまず2人が愛によって結びつき、お金について問題が生じても愛の力で乗り越えるべきだという感覚が普遍的にある。その一方、特に中国や韓国では結婚する前の条件としてある程度の経済力を重視し、適当な相手が見つからず結婚しないという傾向があることが少子化の原因になっていると考えられる。

 

これからの日本社会


 出生率はすぐに上げられるものではない。特に日本は女性の就業において不利な点が多く残っているため、合計特殊出生率を2.1まで引き上げ、人口置換水準を満たすのはほとんど不可能だと考えられる。

 その具体的な理由として、公的家族支出や公的教育支出に対する政界・国民の同意が世界と比べてもかなり弱いことが挙げられる。日本は奨学金や寄付金など、教育に支出する公費が欧米に比べると少ないうえに、家族主義のもと学費は親や家族が負担すべきという考え方が根強く残っており、それが家族の負担になっている。また、日本はOECDで下から2番目に公務員が少ない。公務員などの公的雇用は残業や転勤が極めて少なく、育休が取りやすいため女性に安定雇用を提供し少子化を緩和するという面で国家にとって重要なものである。つまり女性の公的雇用が少ないことは、日本が女性にとって働きにくい社会であることを示しているとも言える。

 日本企業が内部労働市場による人材調達を重視しがちであることも少子化の解決を妨げる原因の1つである。内部労働市場とは、ある企業内やある企業のグループ内で主に労働力を調節するために定期的に人が移動するような市場のことを指す。このようなメンバーシップ型雇用は日本で独自に発達しており、結果として女性の安定雇用と賃金格差縮小を阻んできた。内部労働市場で人材をプールする企業では、一括で新卒を採用し、企業内部で労働力を調節するため、ある部署で人手不足が起きた際は転勤で社員をその部署に移動させたり、人手不足の起きている部署内における労働者の残業を増やしたりすることで対応する。このような労働形態は家族形成を阻害するため、国民がより働きやすい環境を作ることが課題である。例えば欧米では、外部労働市場やジョブ型雇用が一般的であり、ある部署で人手不足になっても新たにその部署が必要な分だけ労働者を雇って対応する傾向にある。そのため労働者側としては、転職もしやすく、働き手は自分にとってより良い条件を求めて職場を変えやすい。若年女性の過労死や新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、日本でもようやく「働き方」を見直す機運が高まってきたが、働き方改革は少子化対策において重要な役割を担うことになると考えられる。

 加えて、外国人労働者に対する忌避感も払拭すべき問題だ。出生率が回復しない場合高齢化やそれに伴う労働者不足は避けられない一方で、日本は比較的外国人労働者が定住しにくい。日本人は外国人労働者が増加すれば治安が悪化するというイメージにとらわれがちだが、社会の持続のためには移民の安定した受け入れ・定着が必須であり、外国人労働者が定住しやすい社会を目指して早急に議論を進めるべきである。

社会の舵取りに必要な考え方


 1970年代からの少子化は意図して起こったものではなく、終身雇用や残業によって日本を経済的に強い国にしようとした結果、少子化が招かれてしまったと考えるのが自然である。このように、社会は「意図せざる結果」で形作られる。少子化に関して言えば、なぜ女性の就業率は長期的にU字型を描くのか、なぜ雇用機会均等法が効果を持たなかったのかなど、様々なデータに疑問をもって社会を見る姿勢が必要だ。そのような視点を持つことができれば、日本社会が男性的な働き方を女性にも押し付け、育児期に対してのみ手当てを厚くしていた傾向があることに気づき、これからは男性の働き方を改善し、女性が自然と労働に加わることのできる環境を作ることが大切なのかもしれないと推測することができる。

質疑応答


Q1.少子化が改善するにはどのくらいの時間がかかるとお考えですか?

A1.現状では相当厳しいと考えています。20~30年の期間を経ても出生率は1.6程度にしかならないと個人的には思っています。そもそも、今は新型コロナウイルスの影響で政府にお金の余裕がありません。現在行っている少子化対策の取り組みとしては、高所得者への児童手当を待機児童にふりわける等、別で使うはずだったお金を必要な場所へ移転する政策が挙げられますが、これでは不十分でしょう。講演でも言及したように、外国人労働者など外部の労働力を受け入れる体制を整える必要があると考えています。

 

Q2.「30年後には人口構成が変わり、高齢依存率が落ち着くのではないか」という意見もあると思うのですが、いかがお考えでしょうか。

A2.出生力が2.1まで回復しない限り、常に高齢者数の方が生産年齢者数よりも多くなります。現在は多少少子化が緩和されつつありますが、人口構成が不利なままであり続けるでしょう。

 

Q3.メンバーシップ型雇用社会からジョブ型雇用社会へと転換していくには、どうしていけば良いとお考えでしょうか。

A3.転勤が無かったり、労働時間や業務内容が限定されたりしているような職が増えていくことによってジョブ型雇用社会の実現は近づいていきます。ですが、ジョブ型雇用には企業が労働者を解雇しやすくなるというデメリットがあり、失業率が上がってしまう懸念があります。そのため、失業補償を手厚くするなど、政府による適切な対応が必要です。

 

 

 

Q4.可能性の話にはなりますが、外国人労働者の出身国が少子化の状態になってしまった場合はどうなるとお考えでしょうか。

A4.例えばアメリカは、フィリピンやメキシコからの外国人労働者のお蔭もあってある程度出生率を維持できています。そして、アメリカで働いているような移民は自国では比較的社会的地位が高いため、自国のさらに貧困家庭から人を雇って暮らしている例もよく見受けられます。このような形態をグローバルケアチェーンと言います。格差をもとにしたケア労働力の移動が、今後100年程度は無くならないと考えているので、次の段階もあまり想像が出来ません。

 

Q5.ご講演の中で、スウェーデンは社会が独身者前提ではないと仰られていましたが、具体的にはどういった点があげられますか。

A5.スウェーデンではダイバーシティ意識が浸透していますので、独身者に対するあからさまなプレッシャーは少ないと思います。ですが家族向けの支出や社会サービスが手厚い分、独身でいることが「損」なのです。もちろん日本でも独身でいることは税や社会保険の上で損なのですが、その度合が違います。

 

Q6.外国人労働者を日本に招くのは、労働者を確保し、ジョブ型雇用を推進させるためのものと理解しています。これに関して、いわゆる機械化やAIによる労働力の確保についてはどのようにお考えでしょうか。

A6.外国人労働者の参入が人手不足を解消すると期待されている業種(建設、販売サービス、清掃、外食、宿泊、ケア労働)において、どこまで「安価」に機械化できるかにかかっています。技術的に可能かどうかというより、コストが問題です。例えば介護分野では補助機械が開発されていますが、あくまで人のサポートが目的であり「人を雇わなくなる」ほど進んでいるわけではありません。人間の代わりになるロボットが開発されても、年間の人件費500万以上費用がかかるようなら意味がありません。一般に機械化は難しく、私たちはいまだに食洗機や掃除用ロボットがあっても煩雑な家事から解放されていません。もちろん近いうちに飛躍的に技術が進歩してロボットが低コスト化すれば話は別です。

 

所感


 ご講演を通じて、改めて少子化に関する問題点や原因を整理し、理解することができました。特に、未婚化が進んでいる理由が「結婚しなくても良い」という価値観が普及したからだというよりは、結婚する条件やものごとの優先順位が変化したからだ、という考え方が勉強になりました。また、国際的な比較や日本社会の現状など、多岐にわたるお話はとても興味深かったです。改めまして筒井様、ご講演ありがとうございました。

 

文責:五十嵐 咲良