2015年度 第2回リフレクション

若者の政治参画と選挙制度


 6月5日、日吉キャンパスにて「若者の政治参画と選挙制度」というテーマのもと、ディベートを行いました。論題は「若者の投票率を上げるために、ネット投票を導入することは、日本の政治にとってプラスであるか否か」です。今回は班を肯定派と否定派に分け、ディベートを行いました。また、否定派には、若者の投票率を上げるためにネット投票を導入することがふさわしくない理由とともに、ネット投票に変わる代替案を提示することが課せられました。

 以下、肯定派・否定派において挙げられた論点です。また、否定派の挙げた代替案も取り上げます。

肯定派

投票の機会の増加


 現在投票を行うには、投票日当日あるいは期日前投票の期間中に投票所へ行く必要があります。現在の若者の価値観として「政治に関心はあるけれど、自分の一票が政治に反映されると感じることができず、わざわざ投票所に行くのは面倒だ、あるいはメリットが感じられない」というものがあります。ネット投票が認められれば、インターネットの利用率・時間等で、より多くの若者が投票に参加することが見込まれます。投票に対する負担感の減少とともに、インターネットでは投票にかかる時間の制約が少ないことがその大きな理由です。

若年層の意見の政治への反映


 若者の投票率が向上することで、政治家が増加した若者の意見を無視できなくなり、若年層の意見が政策へ反映されることが期待できます。現行のネット選挙では、ネットを使っての発信は可能ですが、実際に投票はできなかったことから、その影響は予想より小さかったとされています。しかし、ネットで実際に投票できることで、それを用いる若者に対する関心を政治家に与えることができます。

若者自身の当事者意識の向上


 10年20年先の日本の中心となるのは、高齢者でなく、現在の若者です。若者の投票率をネット投票で向上させることで、若者の意見の政策への反映を期待できることは前項で述べましたが、さらに、若者の投票率が一層上昇するという好循環が期待できます。つまり、若者の政治に対する責任感や当事者意識が目覚めることが大いに予想されます。

ネット投票のリスクの小ささ


 ネット投票に反対する意見として、「なりすましの問題」を挙げる人は多いですが、すでにその問題は解決済みと考えます。日本は今年10月より「マイナンバー制度」を導入します。「マイナンバー制度」とは、政府が国民一人一人に12桁の番号を支給し、その番号を利用することによって、社会保障や税などにかかわる情報を複数の行政機関で共有するというものです。マイナンバー制度は、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会を実現する社会基盤とすることがねらいとされています。政府が、社会保障や税等の極めて厳しい管理を要求される情報をオンライン化することに踏み切ったということは、そのリスクが小さくなったと考えられることに他なりません。ネット投票も同様のシステムを利用することで、なりすましの問題を解決することができると考えています。

否定派

システムのトラブルの可能性


 インターネットという媒体には限界があり、どうしてもシステムエラーが起こります。2013年の調査で、スマートフォンやwebサイト利用中のエラー経験者は85%に上ります。二重投票や、それとは逆にカウントされないなどのエラーが発生するリスクがあります。 さらに、アクセス集中によって、投票ができないという問題が発生する可能性があります。実際に生徒数約三万人の慶應義塾大学において、毎年の履修登録の際には、締め切り直前にインターネット回線混雑によるアクセス拒否が発生しています。有権者が一億人に上る国政選挙において、同様の問題が発生することは明らかだと言えます。

セキュリティに関わる問題


 ネット投票では、インターネット上の遠隔操作による投票データの漏洩、改ざんが起こる可能性があります。国政選挙は日本の行方を大きく左右するため、サイバー上でテロ攻撃されることも予想されます。万が一それが発生した場合、その混乱の大きさは図り知れません。また、現行の選挙制度では、投票所に立会人を置くことで投票時・開票時の不正を防いでいますが、ネット投票では第三者の監視の目がないため、選挙の透明性が著しく低下し、さらなる政治への不信感につながります。

 また、ネット上以外でも問題は発生します。自宅や外出先から投票することが出来るようになると、投票時に買収されたり、脅迫されたりする、ということが起こり得ます。自由選挙・秘密選挙の大原則が揺るがされる大きな問題です。

費用対効果の問題


 ネット投票が導入されても、投票の機会を確保するため、現行の投票所は廃止されないと見込まれます。すると、2つの方式を平行して行うことになります。2012年度の衆議院選挙では650億円もの税金がかけられています。今年10月に導入される「マイナンバー制度」の開発には1100億円を超える予算が掛けられていますが、ネット投票システムの開発にも同等の予算が掛けられると予想されます。したがって、ただでさえ多額になっている選挙費用がさらに増加することになります。さらに、選挙費用の増加に対する国民の批判や政治への不信感ももたらされるおそれがあります。

 

安易な投票による選挙結果の歪み


 ネット投票の導入によって投票のハードルが下がり、今まで政治に関心がなかった層も「考えずに」投票することが予想できます。すなわち、「とりあえずこの人に投票しておこう」という感覚で投票する人が発生し、投票の質が下がってしまいます。具体的には、候補者が「政治的知識のない」著名人や芸能人、あるいはカリスマ性や話術を重視する人になる可能性があります。投票率が上がるということは一見利点に見えますが、人気投票に近い選挙で選ばれた政治家によって、日本や地方自治体の政治が執り行われることは日本の政治にとってプラスとは言えないと考えます。

代替案

中学高校からの政治教育の推進


 現在の中等・高等教育では、十分な政治教育が行われていないと考えます。日本のGDPに占める教育機関への公的支出は2010年に3.6%で、OECD加盟国の30ヶ国中最下位です。具体的には、国政選挙・地方自治体の選挙ごとに各教育機関で模擬選挙を行うことを提案します。実際に模擬選挙を行っているスウェーデンでは、若者の投票率が8割にまで上ります。

投票しなかった人の住民税を増税


 減税などでメリットを与えるよりも、増税というデメリットを与えることで必然的に選挙に行くようになり、若者を含む全体的な投票率が上がると考えられます。特に若者は投票率が低いので、他の世代に比べて高い伸びが期待できます。

所感


 今回のディベートは、抽象度の高い「政治」というテーマにおいて、「ネット投票を用いて若者の投票率を上げることは日本の政治にプラスになるか否か」という、ある程度具体性をもったものについて討論しました。普段の生活では、選挙、そして政治について考える機会は少ないと考えます。ましてや、このようなリフレクションでもしない限り、それらの分野に関して深く掘り下げることはないと感じました。

 事前学習・リフレクションを通して、若者の投票率が低いことで発生する状況、とりわけ「シルバーデモクラシー」についての理解を深め、選挙権を行使することの重要性を改めて理解しました。また、私は「自分と同世代である若者の選挙権が行使されることを促す」ことの重要性を強く認識しました。

 

 6月12日は、原田謙介氏(NPO法人Youth Create 代表)と田中大輔氏(東京都中野区区長)を講師にお迎えし、トークセッションを行っていただきます。

 

 

文責:後藤拓野